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高松市春日町の春日川べりにある県動物管理指導所。県内で捕獲された野良犬や飼い主から引き取った不要犬はここに集められ、炭酸ガスで殺処分される。その数、年間約八千匹(二〇〇〇年度)。華やかなペットブームの裏側で、ひそやかに日々繰り返されている安楽死という名の処分。人間の身勝手と無責任が生み出す冷酷な現実から、私たちはいつまで目をそむけているつもりだろうか。 【→2002年3月4日「死を待つ犬たち
2」へ】

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| 昇降台に乗せられ、ガス室に送られる寸前の犬。上方奥に処分機がある |
「処分した犬? あれが先週分です」。県動物管理指導所の職員が指差す先に袋が二つ、ポツンと置かれている。 「一袋にだいたい百匹。骨は粉砕機にかけるから容量が小さい。もうじき廃棄物業者が引き取りにくる」 二百匹の「死」は正門わきの路上で、ごみの処分場行きを待っていた。
●順 送 り 職員の案内で抑留室に足を踏み入れる。七つの房に区切られた室内。全部で四十匹はいるだろうか。 「これは、あした処分。あちらはあさって」。搬入の曜日別に区分された犬は、保管期限の三日間を過ぎると順繰りに隣のガス室に送られる。元の飼い主か里親(別稿参照)に引き取られるのは年間百五十匹程度。生きて再びここを出る確率は2%しかない。 おりに近づくと、子犬が一斉に駆け寄ってきた。人の温もりも知らないうちに捨てられただろうに、親愛に満ちたまなざし。金網に前足をかけ、差し出した指を争うようになめる。成犬はうずくまったまま。おびえた視線が痛々しい。 首輪をつけた犬も目につく。年間約千二百匹は飼い主が自ら持ち込んだ「引き取り犬」という。 <近所からうるさいと苦情を言われた><引っ越すので飼えない>。事情はさまざまだが、「年をとったとか、臭いとか身勝手な理由も多い」と職員は嘆く。 持ち込んだ犬がふびんと、その場で泣き出す飼い主もいる。「考え直しませんか、引き取ってくれる人をもっと捜してみませんかと説得するんですが…。たいてい犬を残して帰っていく。こっちが泣きたくなる」。 通路を隔てた猫室には十数匹。猫はすべて飼い主からの引き取りで、年間約千五百匹が処分されている。
●安 楽 死
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| 成犬の目には悲しみとおびえが宿っている |
ワゴン車が搬入口に横付けされた。荷台に五匹の成犬。「丸亀保健所で三日間保管済み。すぐ処分します」。 犬たちは抑留室を通り過ぎ、通路の一番奥の昇降台に追い込まれた。箱型のガス処分機が上方にのぞく。迫る死を察知したのか、外に出たがるシベリアンハスキーを職員の手が押し戻す。 「追い込み作業は何度やってもいや。でも、いちいち同情していたら、この仕事はできん」 扉が閉まり、犬は視界から姿を消した。「さあ、カメラはもうええでしょう。ここから先の作業は機械がやる。人は入れません」。 リフトで上がった犬は自動的に処分機に。操作室でスイッチを押すと、炭酸ガスが注入される。「一、二分で意識を失う。苦しみのない安楽死」。処分機の中の様子はモニターでチェックできるが、「もう何年も見たことはない。見たくはないよ」。 十数分後、遺体は焼却炉に落とされ、八百度を超える高温で約二時間焼かれる。骨は砂状に細かく砕かれ、事業系の一般廃棄物になる。
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| ガス室につながる通路。見えない空に向かって一頭がほえる |
●現 実 「保健所に渡して殺されるのはかわいそう。公園や山に放せば生き残る望みがある。だれかが拾ってくれるかもしれない。そんな理由で犬を放置する人が相変わらず多い」 動物管理指導所を所管する県中部保健所の石川勲係長は「現実はカラスに襲われ、寒さにやられ、死ぬ率はかなり高い」と話す。「生き延びても人に危害を加えたり、だれも面倒をみられない多くの命を生み落とす。で、ここに来る。本当にかわいそうなのは、どちらでしょう」。 焼却施設の裏庭に「やすらぎ」と刻まれた慰霊碑が建っている。毎年九月、県内の保健所職員らが慰霊祭を営むというその碑のそばに、炭酸ガスのボンベが十本。むきだしのまま据え付けられている。 「これが悲しい現実。犬を飼うことは、その命にかかわること。最後まで責任を持ってほしいと言うしかありません」。獣医師でもある石川係長は「結局はモラルの問題に行き着いてしまう」とため息をついた。
●ゆううつ 夕刻の抑留室。最期の日までわずかな猶予を与えられた犬が寄り添ってまどろんでいる。この日、安楽死という名の殺処分で三十二匹の命が消えた。 「今は少ない方。春は犬の繁殖期のうえに転勤シーズン。収容数がどっと増え、やりきれん気持ちになる」 「これまでに十万匹は殺したことになるのかなあ」。足掛け十年勤務する職員は、ぶ然とした表情で業務日誌に「三十二」と書き込んだ。

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| 金網越しにレンズを見つめる子犬。既に処分され、この世にはいない |
「確かにうどん屋も多いけれど、野良犬も多いんですね」。香川を訪れた観光客が冗談半分で口にすることだが、笑い事では済まない。県によると、九九年度に県動物管理指導所に収容された犬は七千四百三十九匹。千葉、沖縄、福岡に次いで全国で四番目に多い。事態は深刻だ。
●かすかな光 飼い主に見捨てられた犬たちに救いがないわけではない。県は昨年から希望者に譲る「里親制度」を始めた。管理所の講習を受けた上で、責任を持って飼うことを誓約した人に譲渡する方式。昨年一年間で八十人が講習会に参加し、約二十匹が引き取られていった。
講習会は月一度、平日の昼間に行われる。気軽に参加するには少々厳しいスケジュールだ。 「この日程だと、昼間も面倒を見ることができるという予想ができますよね」とは講習を担当している県中部保健所の石川勲係長。「もう少し融通を利かせたい気持ちはありますが、できるだけ理想的な飼い主に譲りたい。また戻って来ることがないように」。 もちろん、里親に恵まれて新たな「人生」を歩む犬はごくわずか。根本的な解決にはならず、大半が殺処分される。 「最後まで飼うのはもちろん、不妊や去勢を行うことです。当たり前の義務を果たしてくれれば済む話なんですよ」と訴えるのは県生活衛生課の藤明洋和主査。昨年八月に施行した「県動物の愛護及び管理に関する条例」でも、飼い主の順守事項として「終年にわたる飼育」「繁殖を防ぐ措置」を求めている。
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| 今年1月の譲渡会で子犬を引き取った里親。「大事に育てます」 |
●啓 発 事態を打開しようと民間の愛護団体が活発に動いており、里親探しや去勢・不妊手術の補助を独自に行うほか、啓発パンフレットを作って小中学校に配布している。 「処分はかわいそうだから愛護団体に何とかしてもらおうという相談が後を絶たないんです」と嘆くのは「動物愛護かがわ」事務局の辰巳省子さん。「活動の中心は捨てさせない社会を目指す啓発。相談者には何とか思い直すよう説得する。愛護団体は引き取り所ではないんですから」。 自治体では、高松市、志度町、国分寺町、財田町で飼い犬(猫)に対する不妊・去勢手術費の補助制度を設けている。しかし、愛護条例の理念にあるように不妊や去勢は飼い主の責任で行うべき措置。補助に頼らなければならない現状は、飼い主のモラル低下をくっきりと映し出している。 「私たちも処分なんてしたくないですよ。でも、狂犬病の発症や人への危害を防ぐのは重要な仕事ですから…」。尽きることのない担当者のジレンマを解消する手だては結局、一つしかない。
黒島一樹、宮脇茂樹、泉川誉夫、鏡原伸生(写真)が担当しました。
(2002年2月4日四国新聞掲載) |